「他の美容室で断られました。」
この言葉を、僕はこれまで何度も聞いてきました。
カウンセリングの最初に、少し申し訳なさそうにそう話してくださる方も少なくありません。
そのたびに僕は思うことがあります。
「本当にできなかったのかな。」
実は、その答えは一つではありません。
黒染め、セルフカラー、縮毛矯正。
黒染め、セルフカラー、縮毛矯正、ブリーチ履歴。
これらが重なるほど、どうしても難易度は上がっていきます。
履歴が複雑になるほど、髪の中で何が起きているのかを予測しづらくなるからです。
一つひとつは珍しくない履歴でも、重なった瞬間に急に難しくなる。
そこが複雑履歴の難しさなんですよね。
だから、施術を断る美容師がいること自体は、決して間違いではないと思っています。
ただ、
「できない」と「無理をしない」は、まったく違う話です。
ブリーチは、薬剤より「判断」の仕事。
長年、複雑履歴のブリーチを数多く担当してきました。
その中で僕が見ているのは、髪の色ではありません。
髪の体力です。
どこなら攻められるのか。
どこは今回は見送るべきなのか。
今日はどこまで進めるのが安全なのか。
カウンセリングの時間の大半は、実はその判断に使っています。
ブリーチは、薬剤より「判断」の仕事だと思っています。
明るくすること自体は、正直そこまで難しくありません。
難しいのは、「どこで止めるか」を決めることです。
同じ「複雑履歴」という言葉でも、一人ひとり髪の状態はまったく違います。
だから毎回、同じ施術はありません。
毎回違う髪と向き合い、ゼロから判断しています。
現場では、「今日はここまで」が一番大切なこともある。
SNSを見ていると、一回で劇的に変わる写真がたくさん並んでいます。
もちろん、それも一つの技術です。
でも実際の現場では、
「今日はここまでにしておきましょう。」
という判断の方が、価値があることの方が多いんです。
一回で理想通りに仕上げることより、
半年後、一年後も同じ髪で相談を続けてもらえることを優先したい。
派手さよりも、続くことを選ぶ。
そんな感覚に近いかもしれません。
無理に進めて後悔するより、
少し時間がかかっても、未来まで綺麗でいられる方がいい。
僕はそう考えています。
美容室を選ぶときに、一つだけ見てほしいこと。
もし複雑履歴で美容室を探しているなら、
「何でもできます。」
と即答する美容師より、
「今回はここまでなら安全にできます。」
と、できることとできないことを丁寧に説明してくれる美容師を選んでみてください。
その説明が丁寧なお店ほど、
当日の仕上がりだけではなく、
数ヶ月後の髪まで考えてくれていることが多いと思います。
複雑履歴ブリーチは、「未来」をつくる技術。
複雑履歴ブリーチは、
髪を明るくする技術ではありません。
未来の髪を守りながら、理想へ近づけていく技術。
だから僕は、
無理に一度で完成を目指すより、
一年後も「やって良かった」と思える選択を、一緒に積み重ねていきたいと思っています。
次回予告
Vol.006
「レイヤーカットは、長さより”位置”で決まる。」
同じ長さなのに、軽く見える人と重く見える人がいる。
その違いは、実は「長さ」ではありません。
次回は、レイヤーカットの本当の役割について書こうと思います。
